「外にいる猫を幸せだとは思えない」~『南中野地域ねこの会』インタビュー

2022/03/31 20:00

ガラス張りのため外から日向ぼっこする猫を見ることができます。撮影中も多くの通行人が足を止め猫たちを見ていました。(C)いぬねこプラス

 9500年前から人間と生活をともにしていたとも言われる猫。長年人と生活圏をともにしてきた猫ですが、“可愛い“や“癒される”といった側面とは別に、身近な存在であるからこそ、さまざまな問題も抱えています。その中でも、世の“ねこ好き”以外の生活にも密接にかかわってくるもののひとつが「飼い主のいない外猫」の存在です。

 飼い主のいない外猫は、一般的に“野良猫”で括られますが、実はこの中には“地域猫”と呼ばれるコたちが存在します。

 今回はそんな“地域猫活動”を行う中野区民公益団体「南中野地域ねこの会」を取材し、地域猫活動の重要性や活動する中で感じた率直な気持ちや世間に対する要望を聞きました。取材に応じてくれたのは同会の代表である村野君枝さんと10年以上ボランティアを続けているSさんとTさんの3人です(SさんTさんは夫婦)。

 地域猫活動は、飼い主のいない猫を一時的に保護し(Trap)、避妊・去勢手術を行い(Neuter)、元に戻す(Return)活動は、この頭文字から「TNR」と呼ばれます。「増やさないための活動」「餌やりや見守りを中心とした共生のための継続した活動」が、“地域猫活動”です。

 地域猫とはTNRされた猫のことで、避妊・去勢手術済みが確認できるように耳を桜の花びらのようにカットされています。“さくら猫”とも呼ばれ、オス猫は右耳、メス猫は左耳がカットされています。

『南中野地域ねこの会』設立のきっかけはウサギ!?

南中野地域ねこの会代表の村野さん(C)いぬねこプラス

 2005年に設立された南中野地域ねこの会は、これまでに2000匹を超える猫のTNRを実施し、1000匹近くの保護猫を里親に譲渡してきましたが、意外にも村野さんが地域猫活動に携わるようになったきっかけはウサギでした。お子さんが通っていた保育園から譲り受けたウサギが亡くなり悲嘆していたところ、縁あって知人の方から茶トラ猫と黒猫の2匹の猫を譲り受け、飼っているうちに野良猫の存在が気になるようになっていったといいます。

「15年前は野良猫だらけでしたよ! 私は猫を2匹飼っていたので、その猫にエサをあげてると、外の猫が子どもを産んでエサを欲しがるんですよ。そこで、エサをあげたりしていたら、2時間おきにもらいに来るようなった(笑)。 しょうがないから、車の下にカリカリと水を置いて、片っぱしから捕まえて手術したんですよ。」(村野さん)

 当時は低額で避妊・去勢手術をしてくれる動物病院がなかったため、仕事が終わってから、一カ月のうち20日も15km以上離れた動物病院まで捕獲した猫をワゴン車で搬送し、到着は深夜1時を過ぎることもあったそうです。2009年からは国内における犬猫の殺処分ゼロを掲げるNPO法人「ゴールゼロ」の代表を務める斎藤朋子医師を招き「mocoどうぶつ病院」(現在は八王子市に移転)を南中野地域ねこの会が運営する保護猫シェルターに併設したことで、捕獲した猫の避妊去勢手術やワクチン接種が容易になったといいます。

シェルターでくつろぐ保護猫たち(C)いぬねこプラス

 南中野地域ねこの会の活動により、近隣に大量にいた野良猫はほぼいなくなり、いまでは地域猫が数匹残るだけとなりました。これはすべて村野さんらボランティアのたゆまぬ努力の賜物です。

 捕獲依頼者から受け取るのは避妊・去勢手術代、ワクチン代、往復の交通費のみ。捕獲のために使うエサ代や複数回通う際の交通費、シェルターで保護するための水道光熱費は村野さんが自費で支払っているとのこと。なんと冬場の電気代は75,000円にも上るというから驚きです。

地域猫活動の必要性

 糞尿などの地域トラブルや、外の過酷な環境で苦しむ猫、さらには猫の虐待をなくすためにも地域猫活動は重要だと村野さんは言います。

「外で生まれた猫って幸せそうって言うけど、実際は目がぐちゃぐちゃになってて死にかけてる猫がいっぱいいる。人知れず死んでいく猫も山のようにいる。大きくなって可愛くなった姿しかみんな見てないから、それでいいと思うかもしれないけど、実際に死んでいく猫のことを思うと、外にいる猫を良いと思うことはできない。」(Tさん)

「嫌いな人にとっては、毎日自分の家の前で排泄されたら嫌になるのも分からないこともない。でも、虐待はやりすぎ。虐待事件をなくすためにも外猫は手術して増やさないことが大事ですよ。」(村野さん)

保護猫とうまくいく人の特徴

キャットウォークでくつろぐ梅子ちゃん(C)いぬねこプラス

 現在も南中野地域ねこの会は、外にいる猫を増やさないための地域猫活動を主体に、子猫やお世話の必要な猫はシェルターで保護しています。2013年の自宅の建て替えを機に1階を保護猫のためのシェルターにして、中が見えるようにガラス張りにしたといいます。それにより近隣住民への認知も進み、譲渡会の参加の申し込みも増えていったそうです。

 シェルターには常時2~30匹の猫が保護されており、譲渡会もそこで行われます。中はいくつかの部屋に分かれており、保護したばかりの猫を一定期間隔離するための部屋や、人馴れ訓練のための部屋などもあります。2階の居住スペースでは、特別なお世話が必要な猫が村野さんとともに生活しています。

 南中野地域ねこの会が譲渡会を開催するようになったのは2011年から。この年は震災の影響でTNRが十分にできなかったこともあり、子猫が次々と生まれて、保護を要する猫が急増したことで、譲渡会を開く必要が出てきたそうです。譲渡会がきっかけでボランティアになられた方も多く、それから10年以上継続されている方もいらっしゃるといいます。

スタッフを見守る(?)ラテちゃん(C)いぬねこプラス

 南中野地域ねこの会が1年間で譲渡する猫は80匹ほどで、現在までに約1000匹の猫が里親を見つけました。多くの猫を里親と繋いできたTさんですが、まだ人に馴れきっていない猫を譲渡するときはいまだに心配が尽きないそうです。

「猫が馴れていないうちは家庭訪問して、里親さんの相談を聞くこともあります。7カ月ぐらい馴れなかった猫もいたけど、ついに馴れてくれたり。馴れるまで3〜4年かかった猫もいるから、あまり馴れていない猫を譲渡するときは『ある日突然馴れますから』と伝えてます。それが何カ月後か何年後になるかは分からないのが困りものですけど(笑)。」(Tさん)

 Tさんによると、人にあまり馴れていない猫が珍しく譲渡会でアピールすることもあるそうです。しかもそういう場合は里親さんとうまくいく場合が多いとか。

清掃中もお構いなし。遊びたい盛りのゆうじくん(C)いぬねこプラス

「里親とのマッチングは譲渡会で慎重に見極めますが、猫が人間を選ぶこともあって、普段出てこない猫が出てきて、里親希望の方に甘えたりするんです。そういうときはうまくいくことが多いですね。」(Tさん)

 コロナ禍を機に譲渡会を予約制で行うようになり、事前に希望者とメールでやりとりできるようになったため、「適切なマッチングをしやすく、以前より譲渡率が良くなった。」(Tさん)そうです。

 これまで里親との大きなトラブルはほとんどないものの、譲渡を中止した例はあるといいます。

「条件がとても良いご家庭だったけど、猫を渡しに行ってみたらとんでもないゴミ屋敷で、とても猫を飼える環境ではなかったから、猫を渡さずに帰りましたよ。」(村野さん)

 譲渡後に里親に一番気をつけて欲しいことの1つは、脱走対策だといいます。

「私たちが譲渡しているのはもともと外で暮らしていた猫がほとんどです。そのため脱走のリスクは常にあります。譲渡した猫が万が一脱走してしまった場合、すぐに連絡をいただくようお願いしていますし、私たちもできるだけ探しに行くのですが、それでも残念ながら見つからなかったこともあります。飼い主にとってもこちらにとっても辛い。だから脱走対策は口酸っぱく言います。『うちは大丈夫』と言うところほど危ないので、徹底してお願いします。」(Kさん)

清掃に4時間も! ボランティアの活動内容

清掃中のボランティアスタッフ(C)いぬねこプラス

 設立初期からボランティアスタッフとして活動するSさんTさん夫妻はひょんなことから活動に参加することになったと話してくれました。商店街で催されたお祭りに南中野地域ねこの会も出店しており、ふらっと立ち寄ったところ、同会を取材していたNHKの取材班に、インタビューされたことがきっかけだったそうです。

「NHKがきっかけだけど、猫も嫌いじゃなかったし、猫と触れ合えたらいいなって気持ちで出入りし始めたんです。でも、村野さんのところは地域猫活動だから当時は保護猫はいなかった(笑)。それから大きい捕獲に立ち会わせてもらって、お手伝いを続けるようになっていったんです。」(Sさん)

 KさんTさん夫妻はシェルターの清掃はもちろん、猫の捕獲から譲渡が決定した猫のお届け、不妊手術のための病院までの往復、譲渡会の応対など、休日返上で10年以上ボランティア活動を続けています。

 ここ2、3年でSNSを通じてボランティアが増え、現在20名前後のボランティアスタッフが主にシェルターの清掃や餌やりのお手伝いをしてくれているそうです。清掃作業は午前と午後の2交代で行われていますが、常時2~30匹の猫がいるため、作業には数時間要することも。2人ペアでも大変な作業ですが、平日の午前中は1人ですべて行い4時間かかることもあるとか……。

子猫が多い時は3時間睡眠、シェルターの場所問題も深刻

村野さんの話に耳を傾けるマナちゃん(C)いぬねこプラス

 清掃、餌やり、捕獲などなど、これだけでも十分に大変そうですが、村野さんによると、一番大変なことは子猫のお世話だといいます。

「子猫が来たら寝る暇ないですよ。10匹いたらもう寝られない。10匹にミルクをあげるのに2時間かかって、1〜2時間したらまたあげる。終わるのが午前3時で、6時頃になるとまた鳴き出すからあげないといけない。365日休んでる暇はないです。」(村野さん)

 南中野地域ねこの会には地方からも猫がやってきます。地元のボランティアが対処できない案件があると、村野さんに声がかかるそうです。また地方には外猫の不妊去勢手術を安くしてくれる動物病院が少なく、2カ月待ちになることも。

「保護猫シェルターの場所問題は深刻」だと嘆くKさん。猫ボランティアといっても個人宅でやっていることが多く、譲渡会の会場費もボランティアの持ち出しで運営されているところがほとんどだそうです。

「個人でやってるボランティアは場所を借りて会場費を払って譲渡会を行っているので、保護するのも譲渡もお金がかかります。譲渡会会場では猫をケージに入れたままでしか出せないので、人に馴れているかも分かりません。」(Tさん)

猫の虐待に遭遇したら?

 村野さんは活動をする中で一番悲しい出来事は猫の虐待事件だと話します。

「一番悲しいのは虐待。近隣でも毒団子で死んだり……。ある商店街の猫は全部TNRしたけど、その猫がどんどん殺されて…。警察に相談したら地元の人間がやっているということで、パトロール強化してくれた。犯人を特定しても現行犯逮捕じゃないと逮捕はできない。」(村野さん)

 虐待の現場に遭遇したら、少なくとも写真や動画を撮影し、証拠を残すことが大事だと村野さんは話します。また、悲しい虐待事件をなくすためにも、外で生活する猫が減ることが最善とのことです。最近も練馬区で猫の虐待事件が報告されましたが、目撃者はいるものの証拠がなく、警察は周囲のパトロールを強化するにとどまっています。

活動を続ける理由は「嬉しいから」だけではない

(C)いぬねこプラス

 村野さんは、なにより「保護猫が良いご家庭にもらわれること」が一番嬉しいそうです。かつて手塩にかけて育てた猫に再会した際に「シャー!」と威嚇されても、「それが一番幸せなんですよ。そこの家の子になったってことだから」と笑います。

 KさんとTさんは「もちろん保護した猫が里親にもらわれていくのは何より嬉しいこと」としながらも、10年以上も活動を続けてきた理由はまた別のところにあると話してくれました。

「僕らは嬉しかったからやってるわけじゃなくて、辛かったことの方が多いから、いままでやってるよ。やっぱり死んじゃった子とか、幸せにできなかった子がたくさんいたから、その子のためにもって思ってやってる。それが長く続けている理由だよ。」(Sさん)

「亡くなった猫に対してもっと何かやってあげられたんじゃないか、もうちょっと早く病院に連れて行ってあげれば助かったんじゃないかとか、逆に無理に治療して苦しませる必要はなかったんじゃないかとか……。そういう後悔が常にあるから、経験を次に活かすためにもここで辞めるわけにはいかないと思う。だから、他のボランティアさんに厳しいことを言っちゃったりするけど、これだけの猫がいるから、なるべく1匹1匹が健康で長生きできることを考えて心を鬼にして言うべきことは言う。その結果、私たちが猫に嫌われるんだけど(笑)。」(Tさん)

 村野さん、Sさん、Tさん、今回はインタビューに応じて下さりありがとうございました。みなさん明るく、猫たちも伸び伸びしていて、本当に良いシェルターだと感じました。南中野地域ねこの会に関する情報を下記に掲載しましたので、里親希望の方は南中野地域ねこの会のフェイスブックページで詳細をご覧ください。

Twitter: @MNC_staff
Instagram: @ mncstaff
Facebook: https://www.facebook.com/minaminakanochiikineko/

文=いぬねこプラス編集部

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