「ペットは子どもの感性を高める師匠」 獣医師が飼う前に必要な知識や心構えを伝授

2022/03/28 12:00

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GettyImagesより

 ペットは可愛い、癒されるというだけでなく、子どもの成長過程で、感性を育む良い影響を与えてくれることが分かっています。コロナ禍でお家時間が増えた今、子どものためにペットを迎え入れようと思っている親御さんも多いのではないでしょうか。

 そこで今回は、保育園や小学校で命の大切さや共感性を学ぶ「動物の授業」(NPO法人ワンコレクションの活動)の講師をされている「阿佐ヶ谷動物病院」院長・西井丈博獣医師に、ペットが子どもに与える影響や、迎え入れる前に知っておくべきことをお話いただきました。

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【プロフィール】

西井丈博(にしい たけひろ)
阿佐ヶ谷動物病院院長。麻布大学獣医学科を卒業後、複数の動物病院で経験を積み、2002年、東京都・杉並区に「阿佐ヶ谷動物病院」を開業。NPO法人ワンコレクションの活動に賛同し、子どもたちに対して「動物の授業」を行っている。

ペットを迎え入れるのに適している子どもの年齢は3~4歳

――まず、子どもが何歳くらいの時からペット(主に犬・猫)を迎え入れるのが良いのでしょう。

 この時期が良いという決まりはありませんが、親御さんの負担の面から考えると、3~4歳くらいになるとお子さんから少し手も離れ、ペットの世話をする余裕が出てくるのではないでしょうか。

 ペットの寿命は15歳くらいが平均的なため、3~4歳でペットを迎えると、お子さんが高校生あたりでペットが最後を迎える時期になります。高校生までは基本的に家族と過ごす時間も多いと思うので、ペットとも濃厚な時間が保てますし、親御さんも、お子さんがペットと共に成長していくのを実感できると考えます。

――すでにペットを飼っているご家庭で、新たに赤ちゃんが誕生する場合もあると思います。そうした際の注意点はありますか。

 赤ちゃんとペットのお世話を同時にするとなると、親御さんの負担が増えるのは事実ですよね。ペットも生き物のため、自分たちの思い通りに動いてくれるとは限りませんから。実際に「赤ちゃんが生まれるけどペットがいて大丈夫ですか?」という質問は沢山受けます。

 ただ、赤ちゃんとペットが一緒に暮らすためのルールを決めておけば、問題ないと思います。赤ちゃんのお世話をする時間とペットのお世話をする時間、それぞれの空間を分けてお互いが事故のないようにすることが大切です。そうすればペットもきっと、赤ちゃんを家族として受け入れてくれるはずです。

――子どもだけでなく家族全体としても、ペットがいることで得られるメリットはあるのでしょうか。

 一番は、家族の中でのコミュニケーションが圧倒的に増えることです。ペットを介して「今日はお散歩に行った?」「ご飯は食べた?」といった会話が、親子間で自然と生まれるようになります。

――ペットにとっても、子どもと暮らすことはメリットがあるのでしょうか。

 お子さんがいると、ペットにとっては兄弟や友達のような存在になります。子どもは大人とは違う感性を持っていますし精神年齢も近いので、ペットにとっても暮らしやすい環境だと思います。

 また、子どもの目から見たペットの様子、たとえば「今日はご飯を食べない」「元気がない」などの情報があれば、病気の早期発見に繋がります。家族の人数が多いというのは、ペットにとっては自分を守ってくれる目が増えるということです。

ペットを飼う前に生活環境や医療費の確認を

――お子さんのいるご家庭には、どのような性格のわんちゃん、猫ちゃんが適しているのでしょうか。

 一般的に家庭犬と言われる、誰とでも馴染めるような種類の犬を選ぶといいのではないでしょうか。

 わんちゃんの中には、すごく神経質な犬種や、自分だけを見て欲しいというような性格の子もいます。我が家ではチワワを飼っているのですが、チワワはとても可愛い反面、独立心が強く神経質な部分もあります。その子の中で家族内の順位付けをしっかり付けてしまい、下だとみなした相手の言うことを聞いてくれないことも。うちの子どもたちも時々、「グルル」と唸られています(笑)

 そうしたことを考慮すると、誰にでも心を開き穏やかで、我慢強い傾向のある犬種が適していると言えます。たとえば、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは家族が大好きなわんちゃんです。シーズーやダックスフンドなども、家族の中で楽しく生活できる犬種だと言われています。柴犬も家族に対して忠誠心が強いので、絆を大切にしながらお子さんの面倒も見てくれるようなわんちゃんだと思いますね。

 また猫ちゃんの場合は、原種に近い種類の子は性格がキツイ子もいて、抱っこされるのを嫌がったり、自由を制限されると怒ることもあります。アメリカンショートヘアやスコティッシュフォールドといった猫種は、比較的穏やかな傾向があることが分かっています。

 犬でも猫でも、事前にその種類がどういった性格なのかを調べることが重要です。

――ペットは家族にとって癒しの存在ですが、一方で迎え入れたはいいものの、お世話をしきれずに飼育放棄をしてしまう飼い主さんもいますよね。ペットを飼うことが推奨されない家庭とは、具体的にどのような環境なのでしょうか。

 「飼ってはいけない」と断言することはできませんが、留守が多くペットと接する時間があまりにも少ないご家庭は、ペットが寂しい思いをするので可哀そうだと思います。人間がペットに癒しを求めるように、ペットたちも家族にそれを求めているのです。転勤が多く環境が目まぐるしく変わる家も、ペットにはそれなりのストレスや負担がかかってしまいます。

 また、定期的な病院通いには医療費もかかります。病気になってしまうと、場合によっては高額になることもあります。生活環境や経済面を踏まえたうえで、ペットの将来に責任を持てるかどうか。どれかが厳しいのであれば「今は止めておこう」という判断も必要ですし、クリアしているのであれば、大いにペットを飼ってあげて欲しいです。

最後を看取ることも飼い主さんの役割

――ペットが亡くなった際、親は子どもをどのようにフォローすればよいのでしょうか。

 高齢のペットであれば、家族も死を受け入れる準備がある程度出来ていると思うのですが、病気や事故により若くして命を落とす子もいます。

 幼児期や小学校低学年の子どもの場合、死というものがまだちゃんと理解できていないため、単純にペットがいなくなってしまったことの悲しさでロスになると思います。親御さんは難しい言葉でなくていいので、動物には寿命というものがあること。そして、いつ病気や事故に遭うかもわからず、日頃からそうしたリスクを回避するために、ペットをよく観察したり健康チェックをしてあげたりして、命を大切にしなければいけないということをお子さんに教えてあげてください。

 小学校高学年以上になると、お子さんも死というものに対してそれぞれの感情が出てくると思います。なので、ペットとの思い出や家族にしてくれたこと、楽しかったことなどを家族で共有し、その子が生きてきた時間を大切にしてあげることがお子さんのフォローにも繋がると思います。

――ペットが亡くなるのはとても辛いことですが、子どもにとっては重要な経験でもありますよね。

 そうですね。「動物の授業」でもよく話すのですが、今飼っている動物たちは間違いなく、君たちよりも先に亡くなります。それが動物を飼うということであり、その限られた時間の中で、どれだけ愛情を返してあげることができるか。そして、最期を看取って受け入れることも飼い主さんの役目です。ペットたちといられる限られた時間が、少しでも子どもたちに響けばいいなと思っています。

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「動物の授業」を行う西井先生

エキゾチック動物を飼う場合の注意点

――犬や猫以外のエキゾチック動物であっても、子どもの成長に良い影響を与えてくれるのでしょうか。

 お子さんの年齢や理解力によって変わってきます。感情表現が豊かな犬や猫と比べて、エキゾチック動物は物静かですよね。なので、ペットからの感情が届きにくく、お子さんがその動物のことを理解できないこともあります。一方で、ある程度分別がつくようになった年齢の子どもであれば、エキゾチック動物の色や形がカッコイイといった感性を持っていたり、習性に憧れる場合もあります。

 とはいえ、こうしたことを抜きにしても「生き物を飼う」ということは、動物と人間は共存していることへの理解を深めるきっかけになるのではないでしょうか。

 あとは、エキゾチック動物、特に虫やヘビといった動物は、子どもが飼いたいと言っても親御さんが「気持ち悪いから……」とストップをかけるケースもありますよね。ただそれは、子どもの知性のために生き物を飼うと言っておきながら、逆に子どもの感性を否定してしまうこともあるので、よく相談をすることですね。

――エキゾチック動物を飼育する際の注意点はありますか。

 まず、エキゾチック動物は飼育が難しいです。寿命が短い動物もいれば、中には人間より長生きする子たちもいますし、温度管理、湿度、空調など、その動物が本来生息する地域の環境を用意しなくてはなりません。ペットのお世話を子ども任せにすることはできませんので、親御さんはしっかりと生態や飼い方の知識を身に付ける必要があります。

 また、エキゾチック動物を専門的に診てくれる動物病院は限られているので、病院が自宅の近くにあるのかなども確認しておきましょう。なおエキゾチック動物の病気は、犬や猫以上に医療費がかかる場合もあります。

――最後に、ペットを迎え入れようと考えている方にメッセージをお願いします。

 お子さんとペットはいい友達であり兄弟であり、感性を高めてくれる師匠で、沢山の愛情をくれます。その分、家族も沢山の愛情をペットに注いで「この子がいて良かったね」と言える家庭をつくっていって欲しいです。

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「動物の授業」の様子

文=いぬねこプラス編集部

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