多頭飼育崩壊は野良猫よりも過酷な状況 人間への恐怖や虚弱体質、共食いの惨状

2022/04/29 12:00

多頭飼育崩壊は野良猫よりも過酷な状況 人間への恐怖や虚弱体質、共食いの惨状の画像1

GettyImagesより

 タレントで「猫カフェ mfmf(モフモフ)」の動物取扱責任者である多田あさみさん。そんな多田さんが読者からの猫ちゃんに関する質問にお答えする連載が「にゃんことの暮らしQ&A」です。

 第4回目は「猫ちゃんの多頭飼育崩壊のニュースを見ました。多田さんは多頭飼育崩壊レスキューをされた経験があるとのことですが、どのような状況だったのか、また、なぜ多頭飼育崩壊は起こってしまうのかを教えてください」というもの。

 多田さんが今まで多頭飼育崩壊のレスキューに参加したのは計2回。1件目は、他の団体が多頭飼育崩壊の現場に入っているという情報を見つけ「お手伝いできますか?」と声をかけ、2件目は不動産屋から連絡があり「入居者が多頭飼育崩壊で強制退去になったが、このままでは猫たちが保健所行きになってしまう」と協力を呼び掛けられたといいます。

 多頭飼育崩壊の実情や、崩壊をさせないために重要なことをお話いただきました。

汚い部屋で逃げ回る多頭飼育崩壊の猫たち

 保護猫に関心のある方であれば、ニュース番組やYouTubeの動画で多頭飼育崩壊の現場映像を観たことのある方も少なくないと思います。多田さんが入ったお家も、汚物や猫の毛があちこちにちらばっており、悲惨な状態だったそうです。

「1件目のレスキューの際は、どのボランティアさんも現場には入れていません。現場となったお家は個人宅で、家主さんが家に人を入れたくないという理由からでした。そのため最後まで、いったい何匹家の中にいたのか、どこまで去勢手術が終わっているのかなど、はっきりとはわかりませんでした。キャリーに入った猫ちゃんをボランティアさんたちが玄関の前で引き取って、病院に連れて行くかたちでしたね。

2件目のお宅は、一言でいうと汚い。多頭飼育と多頭飼育崩壊の明確な違いは、猫のトイレがあるかないかです。多頭飼育崩壊の場合はトイレがないので、糞尿が垂れ流し状態で、床が汚物と毛の塊で層になっていました。

退去寸前だったのである程度掃除はしてあったのですが、臭いもきつくて中に入るのを躊躇してしまうくらい……集合住宅の一室だったのですが、その部屋の臭いが原因となり引っ越しをする人は多かったようです。このお宅の中には、47匹くらいの猫たちが閉じ込められていました」

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多頭飼育崩壊から保護された猫たち(提供:多田あさみさん)

 家の中にいる猫ちゃんたちの状態も悪かったといいます。

「1件目も2件目も、外で暮らしている地域猫・野良猫たちよりも、猫ちゃんの状態は悪かったです。

野良猫の場合、一カ所に過密になりすぎてしまうと、オスたちが縄張り争いをして力のない子たちは他の地域に出て行かざるを得ない。そのため、自然界的にはその地域の適正な猫の数が保たれているのです。

しかし、多頭飼育崩壊の子たちはそれがない。ひとつの家の中で猫が溢れ、オスたちの過激な上下関係争いによって、特に2件目は目が潰れてしまっている子が多かったです。1件目は風邪が流行っていたので、鼻水と目の腫れが酷かったですね」

 また、子猫が他の猫に食べられてしまった形跡も。

「猫ちゃんたちの年齢や兄弟関係を把握するためにある程度の図を作ったのですが、一定のラインを越えると、子猫の数が一気に減っていて。生後半年くらいの子は多くいても、3カ月とか1カ月の子が全然いないなと。その子たちに関しては、他の猫たちに食べられてしまったのだと思います。食べ物が全然足りていないので……多頭飼育崩壊の辛いところです」

 さらに、人と一緒に暮らしていたはずなのに、猫たちは人を怖がっていたといいます。

「一緒に部屋の中に人が暮らしていたはずなのに、猫ちゃんたちは物凄く人間を怖がっていました。上の世代の子たちは慣れている子もいましたが、弱っていない普通の子たちは捕獲しようとすると大パニック。洗濯ネットの中に上手いこと猫たちを入れて捕獲するのですが、入れた2秒後には爪で洗濯ネットを破って脱出してしまう子もいたほどです。

飼育環境が崩壊し、ご飯やトイレなど人間がお世話をできなくなった時期の子ぐらいから、人に慣れず怖がるようになったようです。家の環境としても、排泄物などを避けるため、人間は猫が入れない部屋を作りそこで生活していたので、野良猫のテリトリーに人間が間借りしているような、そんな状態でした。

2件目は、私たちを含め4団体くらいが入って、4日くらいに分けて猫を捕獲したのですが、私たちが大きい猫8匹、子猫3匹くらいを連れて帰るのに、3~4時間くらいはかかりましたね」

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多頭飼育崩壊から保護された猫たち(提供:多田あさみさん)

多頭飼育崩壊でも猫は飼い主の“所有物”

「多頭飼育崩壊から救出した猫ちゃんたちは排泄物の臭いが染みついており、かなりの悪臭です。普通の動物用シャンプーでは何度洗っても臭いが取れず、色々なトリマーさんや動物病院と相談をして、結果として洗浄力の強い食器用洗剤にクエン酸と重曹を混ぜて洗う方法となりました。食器用洗剤は、水鳥の保護などでも使われています。

クエン酸でアンモニア、重曹で排泄物の臭いを落としきります。洗った人の手も荒れてしまうのですが、人に慣れていない大きな猫を何度もシャンプーする方が負担になるので、1度で終わるこの方法をとりました」

 その後、病院で検査と避妊去勢をし、それが終わったらワクチンの接種となりますが、飼い主さんが「猫を返して欲しい」と言った場合は、返さざるを得ないこともあるようです。

「基本的に、多頭飼育崩壊から救出した猫ちゃんは、飼い主さんの元にあまり戻したくないのが私の考えです。

ただ1件目の現場は、ボランティアさんたちが説得を試みても、飼い主さんの意向で戻すことになった子も多くいたようです。多頭飼育崩壊を起こす飼い主さんは、猫を減らしたくないという執着心を持っている方も少なくないのです。「ずっと可愛がってきたから取り上げないで欲しい」というよりは、自分の所有物が減るということが耐えられない印象ですね。

現状、猫は飼い主さんの所有物という解釈になるので、私たちが無理やり引き離すことはできません。2件目の飼い主さんは結局、夜逃げをしたのですが、そういうかたちで残留物として猫を残さない限り、強制的に保護することは難しいです。

 保護することができたとしても、多頭飼育崩壊の中で生まれ育つということは、猫たちのその後に影を落とすといいます。

「うちが関わった多頭飼育崩壊の子たちは、純血ではないけれど、どこかでスコティッシュフォールドやアメリカンショートヘアーの品種が入ったような子が多くいます。人の目を惹く容姿をしているため、里親が比較的集まりやすかったです。

ただ、面接に来た方々は、まず猫ちゃんの医療費に驚くんです。野良猫の場合、寄生虫は1~2種類程度なのですが、多頭飼育崩壊の子は色々な環境から来た猫同士がうつしあうので、4種類も持っていたりして。重度の風邪やもともと体が弱い子も多かったです。

1件目のレスキューに入ってから4年ほどが経過しましたが、うちから里親さんにお渡しした子も、体の弱さから亡くなってしまった子が何匹か出ています。原因ははっきりとしていませんが、近親での繁殖は健全でないのだなと思っています。妊娠状態で保護した子のお腹の中の状態も奇形があり、普通の状態ではありませんでした。

また、多頭飼育崩壊から来た子は、普通の環境で生きてきた猫と違う反応をすることがあります。おもちゃで遊べないんです。外で生きている猫だったら、虫だったり落ち葉だったりで遊んだり、問題にはなっていますが、トカゲや鳥を取ったりして狩猟本能的な部分を満たします。でも、多頭飼育崩壊の中にいる子は、ただ生きていることに必死の状態で、おもちゃもなければ遊ぶ余裕もありません。

そのため、いざおもちゃを渡しても、おもちゃの遊び方が変だったり、しっかり獲物が追い切れていないなど、他の猫ちゃんたちと違う反応をするんです。中でも印象的だったのが、生後2~3カ月くらいの赤ちゃん猫しか興味を持たないシンプルなおもちゃを、1歳を過ぎた子たちが夢中で遊んでいることがあって……見ていて思わず悲しくなりました」

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赤ちゃん猫用のおもちゃで遊ぶ多頭飼育崩壊から保護された猫たち(提供:多田あさみさん)

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赤ちゃん猫用のおもちゃで遊ぶ多頭飼育崩壊から保護された猫たち(提供:多田あさみさん)

避妊去勢が多頭飼育崩壊を防ぐ

 多頭飼育崩壊を起こしてしまう飼い主さんはどういった方なのでしょうか。

「猫に関する知識が不足していて、かつ、精神的に不安定で経済力がない状態の方ですね。

避妊去勢をしないまま複数の猫を飼えば、どんどん増えていくことを理解していない。また、糞尿の臭いが漂い生き物が死んだり共食いをしている家の中で、自分が生活できるという精神状態は、健康とは言えないと思います。頼る人がいないことも、多頭飼育崩壊を起こしてしまう要因のひとつです。

また、私が入ったお宅はどちらも高齢者の方でした。避妊去勢をしないで自由に外と家を出入りさせて、死ぬときは気が付いたらいなくなっているという知識のままストップしてしまっている方も多いのではないでしょうか」

 では、多頭飼育崩壊を自分が起こさないために重要なことは何なのでしょうか。

「多頭飼育崩壊を起こさないために重要なことは、ひとつだけです。しっかりと避妊去勢をすること。

1件目のレスキューで保護した子の里親募集をかけたとき、「多頭飼育崩壊をニュースで見て、野良猫たちよりも壮絶な生活をしていることを知った。だから、多頭飼育崩壊の子たちを優先的にお迎えしたい」という方が来られたんです。

多頭飼育崩壊の現実を知ることで、自身が崩壊を起こさないようにもできますし、悲惨な環境で育った猫ちゃんたちをもらってくれる、理解のあるお家が増えることを願っています」

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多頭飼育崩壊から保護された猫たち(提供:多田あさみさん)

猫カフェmfmf(モフモフ)

常駐スタッフ猫ちゃんと里親募集中の保護猫ちゃんが走り回る猫カフェ。
公式HP:https://catcafe-mfmf.com/index.html
公式Twitter:https://twitter.com/catcafemfmf
公式Instagram:https://www.instagram.com/catcafemfmf/
住所:神奈川県横浜浜市中区港町2-9-4 関内幸和ビル6F
営業時間:平日 13:00~20:00 休日 11:00~20:00

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【プロフィール】

多田 あさみ(ただ あさみ)
2008年よりタレントとして活動。2016年に「猫カフェmfmf」オープンし、猫の保護活動に従事。年間80頭等前後の猫の保護・譲渡。多頭崩壊レスキューや、離島の野良猫問題などにも取り組む。 趣味は食べ歩き、特技は釣り、魚を捌くこと。

文=いぬねこプラス編集部

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