ウクライナからの避難犬を含め、狂犬病ワクチンはなぜ必要?

2022/05/31 21:00

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GettyImagesより

 タレントで「猫カフェ mfmf(モフモフ)」の動物取扱責任者である多田あさみさん。そんな多田さんが読者からの猫ちゃんに関する質問にお答えする連載が「にゃんことの暮らしQ&A」です。

 第5回目は、ウクライナ避難民のペットが日本に入国する際、特例措置を適応すると農林水産省が発表し話題になった狂犬病。その注目度の高さから「毎年4月から6月はワンちゃんに狂犬病を接種する季節ですよね。しかし、日本では1957年以降、狂犬病は発症していません。それでもワクチンを接種する必要があるのは何故なのでしょうか」という質問があったため、今回は特別にワンちゃん編。

 農林水産省の特例処置とは、通常であれば狂犬病予防法により狂犬病にかかっていないことを示す証明書がないと犬などのペットは飼い主と離れ最長180日間の隔離を動物検疫所で行うところ、マイクロチップ、狂犬病ワクチン及び抗体の確認など、狂犬病の侵入リスクを低下させる処置がなされていることが確認できた場合は、飼い主さんの元で犬の隔離管理を認めるというものです。詳しくは動物検疫所のホームページでご確認ください。

 隔離されるのは犬が可哀想だから特例に賛成するという意見もあれば、狂犬病が持ち込まれることを危惧する声もあり、賛否両論が出ています。

 なぜ狂犬病ワクチンを受ける必要があるのか、今回の特例処置に対して、多田さんの周りの動物に関わる仕事に従事している人の間ではどのような意見が出ているのかを伺いました。

狂犬病ワクチンの接種率は低下している

――2020年6月24日配信のニュースサイト「産経ニュース」によると、1993年頃までは99%ほどの接種率だった狂犬病ワクチンですが、2018年に全市町村に届け出のあった犬のうちワクチンを接種したのは7割だったといいます。

「動物業界全体で、狂犬病ワクチンの接種率低下は問題視されています。毎年、動物病院の先生やうちのようなお店の動物取扱業責任者などが集まる講習会があるのですが、そこでは最初に、自分の市町村の狂犬病ワクチンの接種率はどのくらいかということが話題に上がり、接種率の向上のための啓蒙の呼びかけをしています。

ワンちゃんを飼う場合、まず市町村に畜犬登録をします。登録をすることで自治体から狂犬病ワクチンの案内ハガキが自宅に届き、それを持参して保健所や病院でワクチンを打って、ハガキを返信することでワクチン完了の通知をします。

ただ、登録すらされていないワンちゃんは日本全国にいます。実際に私の周囲ですと、日本の制度を良く知らない外国人の方がワンちゃんを飼い始めたパターンなど、登録されているワンちゃんだけの狂犬病ワクチンの接種率で7割なので、登録外のワンちゃんの数を含めるとそれをさらに下回る接種率になっていると思います。

集団免疫が取得できる接種率を下回っているので、もし国内に狂犬病ウイルスが入り込んだ場合は、感染が広がる懸念があります。

実際に、動物病院の待合室で一緒になった人の中には「うちはワクチンを打たないの、なんか怖いから」と話される方もいたので、接種率の低下は身をもって実感しています」

――接種率の低下には、飼い主さんの知識不足や狂犬病への恐怖の薄れがあるといいます。

「日本では“長らく”狂犬病が発生していないと表現する方もいますが、たった65年程度ですよ。“長らく”という認識は、私自身は疑問に感じます。

ワクチン接種率低下の大きな一因は、野犬狩りなどをしていた時代を生きてきた方々が高齢になり、狂犬病を持った犬にかまれたら死ぬという認識を持っている人が少なくなったことだと思います。戦後を描いた漫画などには野犬が襲ってくるという描写がありましたが、今はないですよね。

また、獣医師や動物関係者ではない方がYouTubeやSNS、ブログで情報発信をしやすくなったことも、要因のひとつではないでしょうか。ネット上では、狂犬病ワクチンは危険だという意見や、獣医師の利権を守るためだという発言も見受けられます。そうした情報に影響を受け、接種しない人もいるのでしょう」

狂犬病ワクチンを打たなかったときのリスク

――狂犬病ワクチンの接種を飼い主さんに強制することはできませんが、飼っているワンちゃんが問題を起こし、ワクチン未接種だと発覚した際には、飼い主さんが書類送検されることもあります。実際に、2019年10月29日配信のニュースサイト「産経ニュース」では、散歩中に女性の太ももを犬が咬み、その犬が狂犬病ワクチン未接種だったことから、狂犬病予防法違反容疑で飼い主の男性の書類送検が決まったと報じています。

「人間のことをワンちゃんが咬んでしまって、そのワンちゃんが狂犬病のワクチン未接種だった場合、飼い主さんが書類送検されるケースがあります。基本的に狂犬病のワクチンは義務なので、打たなくていいという事例は存在しません。接種しなかったらどうこうと語ること自体がおかしいのですが、接種しなかった場合のトラブルはけっこうあります。そうしたリスクを知らない人も多いのではないでしょうか。

また、この接種率でうちの子は大丈夫! と未接種でいたら同じく未接種の犬に咬まれてトラブルに……ということも起こり得ます。

災害などで避難をする際、狂犬病ワクチンを打っていないとワンちゃんが避難所に入れない可能性もあります。ペットと一緒に避難する際は、接種の証明書と鑑札を非難袋に入れておくのがいいと思います。

その他、もし日本国内に狂犬病が発生し、ワンちゃんが狂犬病に感染してまった場合、恐らく飼い主さんが看取ることはできません。安楽死を行う獣医師にも危険が及ぶため、人道的な安楽死も難しいと言われています。

狂犬病の検査はウイルスの検出率が高い脳を検査するので、遺体が綺麗な状態で帰ってくるのかもわかりません。昨今の新型コロナウイルスの対応などを見ると、遺体の状態で返却はできず、感染予防のために火葬を済まされた状態で骨だけで帰って来るという可能性も大いにあります。

自分のワンちゃんがそのような状態になるのは嫌ですよね。狂犬病に関して、うちの子だけは大丈夫! は存在しません」

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