TNRを行い地域猫だった猫たち すあま商會で保護するに至ったワケ

2023/02/28 18:00

 板橋区・大山。東武東上線大山駅からほど近い場所にある保護猫シェルターを併設したカフェ『すあま商會』。すあま商會をとりまく猫たちの物語、第5回はくっしーと留女(るめ)ちゃんのお話です。

人にも猫にも懐かない猫、くっしー

すあま商會より

 2021年2月15日、すあま商會がプレオープンの日にくっしーはやって来ました。すあまさんが保護猫活動をするきっかけとなった保護活動家(以下Yさん)が突然、お店に連れて来たのです。過去にTNR(捕獲した子を避妊去勢してまた元の場所に戻す)をしたくっしーは、7年以上も野良として外で暮らしてきた猫でした。

 もともとくっしーにはミチコという姉妹猫がいました。2匹は近所の家のおばあさんにご飯をもらって生きていました。人懐っこくフレンドリーなミチコとは反対にくっしーは全く人に懐かず、姉妹だというのに2匹はまるで正反対の性格でした。あげたご飯もすぐに食べにくるミチコに比べ、くっしーはおばあさんが姿を消してからようやく食べに出てくる、といった感じです。おばあさんは自分に懐いてくれるミチコの方を可愛がりました。

 くっしーもミチコも1歳くらいの若い時に一度出産をしたことがありました。くっしーの生んだ子たちは全員元気な子でしたが、虚弱体質だったミチコの子は死産か未熟児ばかり。Yさんたちが一度保護をして子猫たちには里親を見つけ、2匹は不妊手術をして元の場所へと戻され、2匹は変わらずにそこで暮らしていました。

 それから6年ほど経ったある日、ご飯をくれていたおばあさんの家の駐車場にある車の下で、ミチコは亡くなっていました。虐待や事故の痕跡はなく、体が弱かったが故の突然死だったのかもしれません。ミチコを可愛がっていたおばあさんは、くっしーだけが残されたその場所にご飯を置かなくなりました。

 見守っていたYさんは、餌がもらえなくなったくっしーを心配しどうしようかと考えていました。ちょうどすあま商會がオープンすることになったため、なんとか捕獲したくっしーをすあま商會に託すことにしたのです。

 晴れてくっしーはすあま商會の猫になりました。

すあま商會で人気者になったくっしーは…

すあま商會より

 くっしーはすあまさんが今までに見たことがないくらい不安症の子で、すあま商會に来てしばらくの間はご飯を食べませんでした。捉まえて無理やり食べさせるわけにもいきません。死んじゃうんじゃないかと心配していたすあまさんでしたが、しばらくするとくっしーはようやくちゅーるを舐めてくれるようになりました。

 「動物は新しい環境に来ると、その環境を受け入れられず不安でいっぱいなんです。新しい環境に慣れるためにケージで過ごし、1週間ほど経つとようやく受け入れ始めるようになるんです。ですが中にはなかなか慣れない子もいます。他のシェルターの話を聞くと、『もうこの子は9カ月もケージですよ』という子もいるみたいです。くっしーも時間がかかるだろうと覚悟していました」

 ひと月ほどケージにいたくっしーでしたが、ケージから出しても相変わらずどこかに隠れてしまい、なかなか姿を現しません。もはやくっしーの全貌を誰も見てないといった状態でしたが、なんとそんなくっしーのことを応援するファンが増えていきました。くっしーが見えるエリアにいるとみんなで喜んで盛り上がったり、くっしーグッズを作ってくれたり、色々な絵を描いてくれたり、みんながくっしーのことを応援するようになりました。

 他の猫も嫌い、人間嫌いでもあるくっしーのお世話は本当に大変でした。寄って行った子猫たちにもシャーっと言うほどですし、病院に連れていくためには毎回死に物狂いで捉まえ、入れて行ったキャリーバックは毎回おしっこでびしょぬれになりました。動物行動学者で動物心療内科でも診察している先生に診断をしてもらい、心を穏やかにする薬を処方されたりサプリメントを試したりもしましたが、それもダメでした。

 ですがそんなくっしーを陰ながら応援する人たちの中に、くっしーを家族として迎えたいと名乗りを上げる人が現れたのです。その人はずっとSNSで見たくっしーを応援してくれていて、引っ越してくっしーを迎える準備を整えてからすあま商會を訪れました。「ありのままのクッシーを辛抱強く受け入れてくれる人で良かった」とすあまさんは言います。

里親さんの家で幸せに暮らすくっしー

 「くっしーの里親さんは、折に触れてくっしーの様子を知らせてくれます。里親さんの家では最初はケージ、その次はクローゼットの住人になっていたくっしーですが、ある日、里親さんが仕事から帰ると寝室の鏡にくっしーの足跡が残っていたんですって。それが嬉しくて消せないと里親さんから聞いて、なんてあたたかい話なんだろうって思いました。

 野良の場合、お腹の中の赤ちゃんにまで栄養が回らない場合も多々あります。そしてどこかしらにその“不足分”は出て来ます。先生のお話では、体に問題が出るばかりではなく、脳の発達段階で栄養不足だったりすることで攻撃性のある子になったり不安症のある子に育ってしまう場合もあるそうです。ミチコが虚弱体質だったり、くっしーが慣れない子だったりするのも、そういった原因があるかもしれません。人にまったく慣れない上に、シニア猫でも里子に行けたことは本当にすごいことです。くっしーは“持ってます”ね。」

 これからもくっしーはくっしーのペースで新しいおうちや家族をどんどん大好きになり、近況を楽しみに待っているくっしーファンを喜ばせることでしょう。

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